海斗の肩にそっと手を置く哲郎。
○同・二階住宅部・キッチン(夕)
千鶴が起きてくる。洗い物をしている
十与にカウンター越しに話しかける千
鶴。
千鶴「今日は学校、午前で終わったんだっ
け?」
十与「うん。これ洗ったら帰るね。お母さん
はこれから夜勤?」
-101-
千鶴「うん。昨日四人も生まれたんだって」
十与「へえ、すごい。忙しそうだね。晩御飯
何か作っとこうか?」
千鶴「本当?嬉しい」
十与「簡単なものしか出来ないけど」
千鶴「人に作って貰った物が一番美味しいん
だよね」
十与「そうだね」
千鶴「そういえば、こないだのお友達大丈夫
だった?お薬効いたかな?場合によっては
-101-
入院した方が良いと思うんだけど、病院に
行ってみたかな?」
十与「ああ‥どうかな?大丈夫だといいなっ
て思ってるけど‥」
千鶴「連絡してないの?」
十与「あ、うん‥今連絡がつかなくて」
千鶴「そうなの?大丈夫?」
十与「うん‥注意事項は伝えておいたし、別
の友達がサポートしてくれてるから大丈夫
だと思う」
-102-
千鶴「そう‥」
千鶴、十与がコーヒーカップを洗って
いるのを見て、
千鶴「あれ?誰かお客さん来たの?」
十与「うん、さっき関口さんって人がお父さ
んに会いに来られたの」
千鶴「関口さん?」
十与「東岡電機に勤めてるって言ってた。3
0くらいの男の人‥知ってる?」
千鶴「関口さんって多分お父さんの昔の上司
-102-
の人の名前じゃないかな‥」
十与「へえ‥でも30くらいだよ」
千鶴「その方はもう亡くなってるの‥あ、も
しかしてその人の息子さんかもしれない‥
前に聞いたことがある‥」
十与「息子さんが何でお父さんに会いに来る
の?」
千鶴「うん‥」
十与、洗い終わったコーヒーカップや
食器類を乾燥機に入れていく。
-103-
十与「‥東岡電機工業って昔一度倒産しかけ
たんだよね?でも今は小さい会社だけど性
能がいい電化製品が多くって人気だってよ
く聞く」
千鶴「うん‥そうだね‥」
十与「何でお父さん辞めたんだろう‥おじさ
んが酒屋継ぐ人がいなくて困ってたから仕
方なかったのかな?」
千鶴「‥こないだね‥お父さんが十与に話す
って言ってたんだけど‥」
-103-
十与「え‥何を?‥」
乾燥機を閉め、タイマーを掛ける十与。
十与「‥コーヒー淹れようか?」
千鶴「うん‥ありがとう‥」
十与、何でもないようにコーヒーメー
カーを取り出し準備を始める。
千鶴「お父さん、何度も十与に話そうとした
んだけど、まだ出来なくて‥」
十与「うん‥」
千鶴「私は話さなくてもいいんじゃないって
-104-
言ったんだけど、もしも他の人から聞いて
しまうことを考えたら、自分から言った方
がいいって言ってて‥」
十与「‥うん」
千鶴「ごめん、お母さんが言う事じゃないか
もしれないんだけど…言ってもいいかな‥」
十与「‥分かった」
千鶴「実はお父さんね‥十五年前その会社で
内部告発したの」
十与「‥え」(F・I)
-104-
○(回想)東岡電機工業・外観
海沿いにある工業地帯の一角にある工
場。『東岡電機工業』の看板。
○(回想)同・製造技術部
自分の席に座っている善行地哲郎(3
1)と宮本(31)。宮本、『苦情処
理リスト』と書かれた書類を見ている。
『製造技術部部長・関口晃』とプレー
トに書かれた席に関口晃(50)が戻
-105-
ってくる。
関口に詰め寄る宮本。
宮本「部長、またS-544型のファンヒー
ターで発火が起こってます。商品回収か注
意勧告を促した方がいいんじゃないでしょ
うか?」
関口「今月は何件きてる?」
宮本「6件です。工場長は何て仰ってるんで
すか?」
関口「もう少し様子を見るそうだ‥」
-105-
宮本「まだ様子を見るんですか?先月もそう
仰ってたじゃないですか。急いで対策を打
たないと、大事故が起こってからじゃ取り
返しのつかないことになります」
関口「‥分かってる」
関口と宮本のやり取りを心配そうに見
ている哲郎。
千鶴の声「でも結局会社はその後も対策を打
たずに問題を放置したの」
-106-
○(回想)アパート・善行地家・ダイニング
(朝)
テーブルで朝食を食べている哲郎と千
鶴(31)、十与(4)。哲郎、テレ
ビの火事のニュースに気が付く。
アナウンサー「幸いケガ人はありませんでし
たが、ファンヒーター付近が激しく燃えて
いるため、発火の原因ではないかとみて調
べを進めています」
席を立つ哲郎。
-106-
○(回想)東岡電機工業・会議室
テーブルに哲郎、宮本、関口が座って
話している。
宮本「部長、一刻も早く商品回収の告知をし
ないと、人命に関わる問題です」
関口「しかし今回の火事は使い方に問題があ
ったことが原因だと聞いている」
宮本「それでもこの商品で問題が多発してい
ることには変わりないです」
関口「分かってる。上にも言ったんだが、回
-107-
収となると会社の損害は計り知れない。う
ちくらいの規模なら潰れてしまうかもしれ
んそうだ」
哲郎「それでも仕方ないです。覚悟は出来て
ます」
関口「君らは若いしそれでいいかもしれない
が、社員の中には再就職が難しい人が大勢
いるし、その家族もいる。簡単な問題じゃ
ないんだ」
宮本「だからってこのままでいいんですか?」
-107-
関口「…」
千鶴の声「それで、お父さん達は知り合いの
同級生の新聞記者に相談して、そしてその
ことが記事になったの‥」
○(回想)同・製造技術部
哲郎と宮本が並んで机に座り仕事をし
ている。
周りの社員達がひそひそと話をしてい
る。
-108-
一人の社員が哲郎と宮本の間に立つ。
社員「今月の給料、支払われるか分からない
らしい。今、会計課や役員達が資金繰りに
追われてるそうだ‥」
哲郎「‥そうですか」
社員「少ししたらお前達も役員室に呼ばれる
だろう‥」
哲郎「分かりました」
社員「‥何で新聞社だったんだ?他に方法が
なかったのか?」
-108-
宮本「何度も上に掛け合いました。でも口を
濁されるばかりで‥大事故になる前に防ぐ
にはこうするしかないと思いました」
社員「少しでも準備出来ていれば、まだ存続
への道も違ったかもしれない‥」
宮本「そんなこと誰も言ってくれなかった‥」
社員「すまない‥会社側が悪いのは
は分かってる。だけど今、会社の為に必死
に駆け回ってる社員がいるんだ。あいつら
がどんな思いでいるか、想像してみてやっ
-109-
て欲しい‥」
哲郎「‥すみません」
宮本「俺達だってこうなることを望んでいた
訳じゃないんです‥出来れば避けたかった
んだ‥」
社員「こんなこと言って悪いと思うが‥お前
達はここにいる全ての人とその家族の人生
を狂わせたということを受け止めて欲しい」
哲郎「‥すみません」
俯く哲郎。
-109-
○(回想)同・駐車場へと向かう道
並んで歩いて行く哲郎と宮本。
哲郎「間違ってたのかもしれない‥」
宮本「今更何言ってるんだよ。あの時はああ
しか考えられなかっただろ?」
哲郎「うん‥あの時はああしか考えられなか
った‥」
宮本「俺達は正しいことをした。お前がぶれ
んなよ。自責に駆られて迷うなよ。全部予
想できた事だろ?それでもやるって決めた
-110-
んだろ?」
哲郎「…俺達ここまで予想できてたかな‥」
宮本「俺は出来てた」
哲郎「‥俺、出来てなかったかもしれない」
哲郎に掴みかかる宮本。
宮本「ふざけんな‥」
哲郎「‥ごめん」
宮本「俺‥誰に責められても耐えられるけど、
お前に迷われるのには耐えられない‥」
哲郎「‥分かった‥悪い」
-110-
宮本「もう頼むから、もう言わないでくれ‥」
手を放し、歩き出す宮本。
後ろをトボトボと歩く哲郎、駐車場へ
と差し掛かる。
○(回想)同・駐車場
駐車場の隅っこに蹲って制服を着た関
口海斗(15)が座っている。
哲郎「‥高校生?」
海斗に近づき、しゃがんで顔を覗く哲
-111-
郎。
哲郎「‥どうかしたのか?」
顔を上げる海斗、哲郎の名札に気付く。
海斗「善行地‥」
哲郎「え?」
哲郎の両腕を揺さぶる海斗。
海斗「俺、関口です」
哲郎「関口?‥ああ、もしかして関口部長に
用事で来たの?」
海斗「‥父は昨夜、心不全で亡くなりました」
-111-
宮本「‥関口部長亡くなったのか?」
哲郎「心不全‥」
海斗「あんた達の正義感を満たす為に、父さ
んは死んだんだ。父さんは悪いことをした
かもしれないけど人殺しはしてない。だっ
たらあんた達の方が罪が重いじゃないか!」
哲郎を突き飛ばし立ち上がる海斗。
海斗「俺は絶対に許さない」
海斗を抱きしめる宮本。
宮本「すまん‥悪かった‥俺が悪いんだ‥」
-112-
泣きながら謝る宮本。
海斗「許さない‥ううっ・・」
泣きじゃくりながら宮本にしがみつく
海斗。
二人の傍で座り込んだまま泣いている
哲郎。
○(回想)同・製造技術(朝)
席に座って書類を書いている哲郎の横
に宮本が立つ。
-112-
宮本「おはよう。来たんだな‥」
哲郎「おはよう。来たよ‥」
宮本「ちょっといいか?」
哲郎「うん‥」
立ち上がる哲郎。
○(回想)同・食堂裏のベンチ(朝)
人影のない食堂裏に置かれたベンチに
座っている哲郎と宮本。
宮本「会社辞めようと思ってるんだ‥」
-113-
哲郎「そうか‥」
宮本「お前は?」
哲郎「うん‥」
宮本「俺の友達の家が小さいけど機械修理の
工場やってるんだ。行く気ないか?」
哲郎「お前も行くのか?」
宮本「いや、俺はどこか海外に出てみようと
思ってるんだ‥」
哲郎「海外か‥」
宮本「‥お前も来るか?」
-113-
哲郎「いや‥」
宮本「そうだよな‥今、寝食を共にしたら変
な関係になりそうだもんな」
哲郎「なる訳ないだろ」
宮本「あはは」
哲郎「‥何だよ、全く‥」
つられて笑う哲郎。
宮本「あー何日ぶりに笑ったんだろ‥」
哲郎「まだ、昨日のことだよ‥」
宮本「そうか‥まだ昨日のことなのか‥」
-114-
哲郎「うん‥」
宮本「一日ってこんなに長かったっけ‥」
空を見上げる宮本。
哲郎「‥俺、後悔してないから‥」
宮本「‥ありがと‥‥俺もだよ‥」
哲郎「うん‥」
曇り空に飛行機が飛んでいる。
千鶴の声「だけどお父さん、それからも何日
もずっと、自分を責めることから逃げられ
なかったの‥」
-114-
○(回想)アパート・善行地家・トイレ
嘔吐している哲郎の声が聞こえる。
十与を抱っこした千鶴がドアの前に立
っている。千鶴の涙を両手で拭いてい
る十与。
千鶴の声「お母さんその時ね、この人の人生
を早く終わらせてあげたいって思ったの。
好きな人の人生が一日でも早くが終わるよ
うに願ったんだよ。酷いけど。でも、好き
な人を失う自分の辛さの方が、お父さんが
-115-
これから毎日を生きていく辛さに比べたら、
まだ耐えられる辛さに感じたんだよ」
○善行地家・一階コンビニ・店内
レジで会計をしている哲郎。
哲郎「430円です」
商品を袋に入れている哲郎の後ろから
抱きつく十与。
哲郎「わっ」
驚いて後ろを見る哲郎。
-115-
十与「大好きだから‥」
カウンターの向こうのお客が目を逸ら
す。慌てて説明する哲郎。
哲郎「娘です。娘なんです」
商品を受け取り足早に去っていくお客。
哲郎「‥」
十与「ずっとずっと何も知らなくて‥ごめん
なさい‥」
哲郎「‥あ‥いや‥」
十与「‥ずっと見た目怖いとか、無愛想だと
-116-
か、倒れたら運ぶの大変そうとか思ってて、
ごめんなさい‥」
哲郎「お前そんなこと思ってたのか‥」
十与「ありがとう‥お父さんが居てくれてそ
れだけで十分です」
泣きながら抱きついている十与。
恐る恐る次のお客がレジ前に立つ。
哲郎「‥娘です」
商品をレジに通す哲郎。
-116-
○富士樹海の森の洞窟の中にあるケケレヤ
ツ・トドク達の住む家・トドクの部屋(朝)
トドク、炭の詰まった布袋をリュック
に詰めている。
ノックしてヒビクが入ってくる。
ヒビクの声「‥トドクがシンに炭を届けに行
くの?」
トドクの声「うん、オウガに代わって貰った
んだ‥帰りに寄りたいとこがあって」
ヒビクの声「今日じゃなきゃダメなのか?戻
-117-
って来たばっかりなのに、こんなにすぐ外
に出て大丈夫?」
トドクの声「分かってる‥なるべく騒音の少
ないとこ選んで行くし、今日中に帰ってく
るから、心配しないで」
トドクがリュックを背負うのを手伝う
ヒビク。
ヒビクの声「トドク‥もしかしてここを出よ
うと思い始めてるんじゃないのか?」
トドクの声「‥よく分からない‥それも含め
-117-
て、外の世界のこと知りたいんだ‥俺はニ
イと違って何も知らずに来たから‥」
ヒビクの声「‥分かった」
トドクの声「心配してくれてありがとう‥」
リュックの位置を確認するトドク。
ヒビク、トドクのリュックからそっと
手を放す。
○花舞駅前のロータリー・バス停
バス停に『富士神原樹海入口→花舞駅』
-118-
とプレートに表示されたバスが止まる。
バスから降りてくるトドク、ふと善行
地家のコンビニの看板を見つめる。
○電車内
電車の窓から外を眺めているトドク。
○アウトドア用品店・表
街の中にあるアウトドア用品店。
ドアが開き、トドクが出て来る。
-118-
○昭和大学・学食
大きなテーブルがいくつも部屋いっぱ
いにあり、食事をする学生で賑わって
いる。
テーブルの一角で十与が一人ラーメン
を食べていると、トレーを持った仁美
が十与の前に座る。
十与「仁美ちゃん‥今日午後からじゃないの
?」
仁美「うん。でも何か十与ちゃんがいるかな
-119-
って思って早めに来ちゃった。十与ちゃん
本当ラーメン好きだね」
十与「‥うん、学食の美味しくて好き」
嬉しそうにラーメンを食べる十与。
仁美「そういえば十与ちゃん、最近妄想の恋
の話、しなくなった気がする」
十与「あれ?‥そうかな」
仁美「うん。そうだよ」
十与「そっか‥仁美ちゃんは?結局同窓会ど
うしたの?」
-119-
仁美「行かないよ。全然行くつもりない」
十与「ふーん‥ねえ、仁美ちゃんって田中君
と付き合う前は、誰か付き合った人とかい
なかったの?」
仁美「うーん‥忘れたな‥」
十与「忘れるものなの?」
仁美「私出来るんだよ。ふとしたことでさ、
昔のこと思い出しそうになっても、回路を
切るみたいにブツって感じで思い出さない
でいられるの。すごいでしょ」
-120-
十与「すごい‥でも偶然会ったりしたらどう
するの?」
仁美「‥会いそうな所には行かない。田中君
が良い気持ちしないんならやめておく。別
に会っても何とも思わないし、むしろ田中
君が好きだなって思うだけなんだけど、い
くら説明してもそれが田中君には伝わらな
い感じがするんだよね‥だったらマイナス
なことしかないように思うんだ‥」
十与「確かにそれは伝わりにくいのかもね‥
-120-
何か、好きな気持ち程伝わりづらい感情も
珍しいような気がする‥」
仁美「うん、そうなんだよ。ほんとそう」
十与「10メートルうさぎ跳びして漸く1メ
ートル分だけ伝わるような、100メート
ル分伝えるには1キロうさぎ跳びしなきゃ
ならないような‥好きな気持ちって割に合
わないように出来てるんだなって思う‥」
仁美「うんうん‥十与ちゃん妄想でそこまで
分かるなんてすごいよ」
-121-
十与「こないだお母さんに気持ち悪いって言
われた」
仁美「あはは」
十与「田中君に伝わるといいね」
仁美「私さ、基本大雑把なんだけど、田中君
を好きなことに関してだけはストイックで
いられるんだ」
十与「へえ‥アスリートだね」
仁美「伝わらないけどね」
十与「難しいね」
-121-
仁美「うん‥難しい」
ため息をつく十与と仁美。
○同・図書室
十与、図書室で勉強していると、ふと
窓の外に青のチェックのコートを着た
トドクが歩いているのを見つけ、立ち
上がる。
○同・構内
-122-
歩いているトドクを後ろから追い駆け
る十与。
十与「トドク君!」
十与の声に振り返るトドク。
十与が目の前に立つ。
十与「どうしたの?何してるの?」
トドクの声「‥こないだの阿世って人探して
るんだけど、分かる?」
十与「阿世先生?‥講義中かそうじゃなかっ
たら自分の部屋じゃないかな?‥行ってみ
-122-
る?」
トドクの声「いいの?授業は?」
十与「大丈夫。休講になって図書室にいたの。
行こう」
歩き出す十与とトドク。
○同・阿世准教授の部屋・前
ドアに『人間環境学・経済科・准教授
阿世』と書かれたプレート。
プレートの下に『学会出張中』の表示
-123-
がされている。
ドアの前に立っている十与とトドク。
十与「いないみたいだね‥」
トドクの声「そっか‥」
十与「あ、そうだ。折角来たんだから学食行
ってみる?」
トドクの声「学食?!行く」
○同・学食
券売機の前に立っている十与とトドク。
-123-
売り切れの文字が点滅している券売機。
券の補充に係りの人が現れる。
扉を開け、券を補充している係りの人
の真横に立ち、中を繁々と眺めるトド
ク。
係りの人「‥見る?」
嬉しそうに頷くトドク。
係りの人が仕組みの説明をしてくれて
いるのを真剣に聞いているトドク。
その様子を後ろで見ている十与。
-124-
× × ×
テーブルに向かい合って座っている十
与とトドク。
ラーメンを食べている。
トドクの声「うまい!」
十与「良かった」
トドクの声「あれ?そういえばお昼食べてな
かったのか?」
十与「さっき食べたよ」
ラーメンを頬張る十与。
-124-
トドクの声「すげーな‥何食べたんだ?」
十与「ラーメン」
トドクの声「‥続けて食べて飽きない?」
十与「全っ然飽きない。いつも最高に美味し
い。大好き」
トドクの声「‥へえ」
十与「気持ちによっても味って変わる気がす
る。トドク君と初めて一緒に食べたラーメ
ンはさっきとはまた違うよ」
美味しそうにラーメンを頬張る十与を
-125-
不思議そうに見るトドク。
トドクの声「よく分からないけど‥ラーメン
好きなんだな‥」
十与「うん。あ、トドク君ももう一杯食べる
?」
トドクの声「いや、いい」
十与「美味しいのに‥券売機また見れるよ」
トドクの声「‥いや、でもいい」
十与「美味しいのに‥」
トドクの声「炭水化物の塊りだぞ‥」
-125-
十与「う‥」
トドクの声「二杯食べたら千キロカロリーは
超えるな‥」
十与「うそ?!」
トドクの声「フルマラソンの消費カロリーが
二千五百キロカロリーだから、20キロ走
らないと消費出来ない計算になる」
十与「‥二十キロ」
箸が止まる十与。
トドク「縄跳びだと1時間、クロールだと2
-126-
時間、自転車だと3時間、ボーリングだと
4時間‥」
十与「ボーリングだと4時間でいいんだ。良
かったー」
再び食べ始める十与。
○昭和公園(夕)
十与とトドク、公園に入っていく。
滑り台で遊んでいるアイネとリカルド。
十与が入って来たことに気付き近づい
-126-
てくる。
十与「遊んでたの?」
リカルド「うん!」
十与「‥お父さん連絡きた?」
アイネ「ううん‥」
十与「そっか、心配だね‥」
アイネ「うん‥」
十与「ねえ、アイネちゃん‥お母さんの具合
ってどんな感じなのかな?寝たきりで全然
動けない?」
-127-
アイネ「ううん‥腰が痛くて、座ってれば大
丈夫なんだけど、立ってするお仕事だから
会社には行けないんだって‥迷惑かけるか
らって言ってた」
滑り台で滑っているリカルドと遊び始
めるトドク、十与に声をかける。
トドクの声「何ていう会社なのかな?」
トドクに頷く十与。
十与「どこの会社か分かる?」
アイネ「うん。東岡電機」
-127-
十与「え?‥そうなの?」
トドクの声「そこ行ってみないか?」
十与「うん‥」
トドクの声「‥嫌なの?」
十与をじっと見つめるアイネ。
十与「ううん、行こう。私、会社に行って現
状を話してきてみる。アイネちゃん、いい
かな?」
アイネ「じゃあ、私も一緒に行く」
十与「‥大丈夫?」
-128-
アイネ「うん」
十与「よし、じゃあ皆で行こう。アイネちゃ
ん、この人も一緒にいい?」
トドクの方を振り返る十与。
頭をぺこりと下げるトドク。
アイネ「‥うん、宜しくお願いします」
トドクに少し微笑むアイネ。
アイネ「二人は何で話せるの?」
十与「え?‥どういうこと?」
アイネ「分かんないけど‥何か二人話してる
-128-
よね?」
十与「‥そんな風に見える?」
アイネ「目には見えないけど‥何かそんな風
に見える」
顔を見合せる十与とトドク。
○電車・車内(夕)
長い椅子に並んで座っている十与とア
イネ。アイネの横に靴を脱ぎ窓の外を
見ているリカルドとその隣で窓の外を
-129-
眺めているトドクが座っている。窓に
息を吹きかけ絵を描くトドク。嬉しそ
うにトドクの真似をして窓に息を吹き
かけているリカルド。
十与「‥私の家コンビニなんだけど、私そこ
でアルバイトしてるんだ」
首を傾げるアイネ。
十与「毎日毎日、賞味期限の一分過ぎたお弁
当やパンを捨てなきゃいけない。そうやっ
てごみを増やしていって‥でもそれがこの
-129-
国では正しいことなんだって」
アイネ「そうなの?」
十与「うん‥仕方ないことなんだって‥」
アイネ「‥ペルーではそれは正しくないこと
みたいだけど、同じ地球の上で同じ時間を
過ごしているのに、何で正しいことが違う
んだろ‥」
十与「そうだね‥何か申し訳ない気がする‥」
アイネ「‥」
十与の手を握るアイネ。
-130-
トドク、隣のリカルドに向かって、
『ひらがなよめる?』と窓に書く。
リカルド「読めるよ!」
トドク窓に字を書く。『りかるどはあ
いねのおとうとだけど でもおとうと
にだって おねえちゃんをたすけてあ
げられることがきっとあるとおもう』
リカルド「‥本当?」
頷くトドク。
リカルド「そっか‥」
-130-
視界が開け、窓の外に海が見える。
○東岡電機工業・門(夕)
門の所に守衛所があり、守衛の人が座
っている。
守衛の人に話している十与。少し離れ
た所にトドクとアイネとリカルドが待
っている。
内線電話をかける守衛の人。
守衛「関口さん、外出中だそうです」
-131-
十与「そうですか。分かりました。ありがと
うございました‥」
戻って来る十与。
十与「一人知ってる人がいたんだけど今いな
いって‥」
トドクの声「そうか‥」
ウーというサイレンの音が響き、工場
内を仕事を終えた人々が歩いている。
○東岡電機工業・門の近く(夕)
-131-
門の中から仕事を終えた従業員の人達
が大勢出てきている。
門の近くに立っている十与達を怪訝そ
うに見ながら通り過ぎていく人々。
門から5人程の女性達が出て来る。そ
の中に戸川深夏(36)の姿がある。
アイネに気付く深夏。
深夏「あれ?アイネちゃん?」
アイネ「あ、深琴ちゃんのお母さん‥こんに
ちは」
-132-
怪訝そうにアイネを見る十与。
アイネ「お友達のお母さん。うちのお母さん
と同じところで働いてるの」
十与「‥そうなんだ」
顔を見合せる十与とトドク。
トドクの声「話してみよう」
頷く十与。
アイネに近づいて来る深夏。
深夏「アイネちゃん、どうしたの?お母さん
今日もお休みだよ。どうやってここまで来
-132-
たの?」
深夏と一緒にいた女性1。
女性1「アイネちゃん?」
深夏、振り返り
深夏「ルースさんの娘さんです」
女性2「ああ」
十与「あの‥お願いがあって来ました」
深夏「はい?」
十与「アイネちゃんのお母さん、腰がなかな
か治らないみたいで、ご主人もずっと行方
-133-
が分からなくて、それで差し当たっての生
活のことでお話ししたくて来ました‥」
深夏「‥はい」
十与「厚かましいお願いだとは思いますが、
例えばルースさんが座ったままお仕事出来
るようにしてもらえないかとか、他に何か
出来そうな仕事とか無いかと思いましてご
相談だけでもしてみようと思って‥」
十与の横でぺこりと頭を下げるアイネ。
深夏「そっか‥そうですよね‥ルースさん先
-133-
月は一日も出勤されてないし、その前の月
も一週間くらいでしたもんね‥お困りです
よね‥」
女性1「ルースさんのご主人行方が分からな
いの?」
深夏「はい‥そうらしくて、ルースさんも心
配されてるみたいなんです」
女性2「大変だね」
深夏「はい」
女性1「ルースさんには早く出て来て貰わな
-134-
いとね。ルースさんがいるのといないのと
じゃ全然効率が違うから」
女性2「そうですよ。座って出来ることもあ
んじゃないかな。明日職長に言ってみよう
か?」
十与「いいんですか?」
女性3「勿論。もっと早く言ってくれれば良
かったのに。ご主人のことも心配ね‥」
十与「ありがとうございます」
アイネ「ありがとうございます」
-134-
深夏「良かったね、アイネちゃん。‥このお
姉さんは知ってる人?」
十与「‥善行地といいます。アイネちゃんと
は偶然知り合って」
深夏「そうなんですか」
女性4「善行地さんって‥もしかして前にこ
こに勤めてらした善行地さん?」
十与「‥はい。父です」
女性1「え?‥あの?」
女性2「まあ、でもルースさんのことはルー
-135-
スさんのことですから‥」
女性3「そうね。さ、行こう‥」
立ち去って行く女性4人。深夏、十与
に頭を下げ後を追う。
ひそひそと話をする女性達。
十与「‥」
アイネ、十与の手を握る。
アイネ「お姉ちゃん、ありがとう。帰ろう」
十与「うん‥お家まで送って行くよ」
アイネ「ありがとう」
-135-
十与「ううん」
十与の手をぎゅっと握るアイネ。
アイネ「ありがとう‥」
女性達から少し離れた後ろを手を繋い
で歩いて行く十与とアイネ。その後ろ
をついて歩くトドクとリカルド。
○富士見駅前のカフェ・店内(夜)
向かい合ってコーヒーを飲んでいる十
与とトドク。
-136-
十与「話してみて良かった。ありがとう」
トドクの声「いや、別に何も‥」
十与「あのままでいい訳ないもんね。何か変
わりそうで良かった」
トドクの声「‥あの人達何か変な感じだった
けど、大丈夫か?‥本当は行かない方が良
かったんじゃないの?」
十与「‥実はウチのお父さんね、あの会社、
内部告発して辞めたらしいんだ‥」
驚くトドク。
-136-
トドクの声「……そうなんだ」
十与「うん‥」
トドクの声「すごいな‥何かよっぽどのこと
だったんだろうな‥」
十与「うん‥」
トドクの声「俺はすごいと思うけどな‥」
十与「‥うん。私もそう思う。ありがとう‥」
トドクの声「‥何か色んな人生があるんだな」
十与「‥そうだね。私も実はお父さんのこと
最近知ったの。19年も一緒に居たのに、
-137-
そんなことがあったなんて全然知らなかっ
た‥何にも見えてなかったんだなってちょ
っとショックだった‥」
トドクの声「人の思いって分かっているよう
な気がしてしまうけど、意外に分かってな
いものなんだよな‥想像にはどうしても限
界がある‥」
十与「そっか‥でも私は私にしかなれないか
ら想像するしかないもんね‥だけど想像と
経験とではきっと全然違うんだろうね‥」
-137-
トドクの声「そうだな‥」
壁の時計に気づくトドク。
トドクの声「あ、やばい。もう帰らないとバ
スに間に合わなくなる」
急いでコーヒーを飲むトドク。
十与「‥忙しいんだね」
トドクの声「いや、こないだ外に出たばかり
ですぐにまた来てしまったから伝心の力が
弱くなってるんだ‥あまり外の世界の音に
触れ過ぎると、戻れなくなることもある」
-138-
十与「そうなんだ。大変‥急がないとだね」
立ち上がる十与。
十与「‥また来る?」
トドクの声「うん。今日はケケレヤツから炭
を持って来たんだ。織布とか木製チェアと
か色々、紙漉のお店で売って貰ってて‥」
十与「こないだ言ってた知り合いの人?」
トドクの声「そう」
十与「‥じゃ、また来るんだね」
トドクの声「うん。阿世って人にも会いたい」
-138-
立ち上がるトドク。
安堵する十与。
○富士見駅・改札口(夜)
改札口の中に入っていくトドク。
少し振り返って手を上げるトドク。
手を振り返す十与。
トドクの姿が人波に紛れる。
○住宅街の中の道路
-139-
ランドセルを背負って4人の女の子が
仲良さそうに歩いている。その中にい
る楽しそうなアイネ。分かれ道に差し
掛かり、アイネと戸川深琴(11)の
二人と、女の子2人とに分かれる。
アイネ・深琴「バイバイ」
二人の女の子「バイバイ。明日忘れないでね。
皆で交換しようね」
深琴「うん!」
手を振り、別れて歩いていく女の子達。
-139-
アイネと深琴、並んで歩いている。
深琴「お母さんがアイネちゃんも家に呼んで
おいでって。明日の友チョコ一緒に作ろう
よ」
アイネ「うん‥」
深琴「じゃあ、宿題終わったらウチに集合ね。
材料もお母さんが一緒に買いにつれてって
くれるって」
アイネ「うん‥」
下を向いて歩いて行くアイネ。
-139-
○百円ショップ・店内
チョコレートやトッピングのお菓子、
ラッピングの袋やリボン等を次々に選
び、籠へ入れていく深琴。
ラッピングの袋を手に持って眺めてい
るアイネの横へ戸川深夏(36)が立
つ。
深夏「全部で三個づつ作るんでしょ?」
アイネ「はい‥」
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深夏「だったらそんなに沢山買っても余っち
ゃって勿体無いから、必要な分を一緒に買
って二人で分けようよ」
深夏を見るアイネ。
深夏、アイネに顔を寄せ
深夏「アイネちゃんお金持ってきた?」
アイネ、ポケットから100円玉1枚
と50円玉1枚、10円玉数枚、5円
1円数枚を深夏に見せる。
深夏「じゃあアイネちゃんの分、おばちゃん
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貰ってもいいかな?」
戸惑いながら頷くアイネ。
深夏、アイネの掌からお金を受け取る。
深夏「ありがとう。じゃあ早く帰って一緒に
作ろう」
深夏、アイネの手を引いて歩いて行く。
アイネ「‥」
深夏の顔を見上げるアイネ。
○戸川家・キッチン
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深琴、溶かしたチョコレートの入った
ボールを混ぜている。
深琴「味見しよう」
チョコレートを指で取って舐める深琴
とアイネ。
深琴「美味しい!」
アイネ「うん、美味しい!」
深琴「もう一回」
アイネ「深琴ちゃん駄目だよ。無くなっちゃ
うよ」
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深琴「うー‥じゃあ匂いだけ‥」
ボールに顔を寄せ匂いを嗅ぐ深琴とア
イネ。
深琴「あーいい匂い。絶対美味しいの出来る
ね!楽しみ。ね?」
遠慮がちに頷くアイネ。
深琴「あーこのボールの中で泳ぎたいな」
アイネ「え?でも髪の毛についたらドロドロ
になるよ‥絶対シャワー大変だし目に入っ
たら痛いよ」
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深琴「シャワーからもチョコレートが出てく
るんだよ。口開けたままシャワー浴びるの。
幸せじゃない?」
アイネ「そうかなあ?‥あ!深琴ちゃん、早
く型に流し込まないと固まっちゃうよ」
深琴「あー!とれない‥」
ボールの中で深琴の指がチョコレート
に刺さったまま固まっている。
笑い合う深琴とアイネ。
深琴「そうだ。皆で交換するの止めて今食べ
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ちゃおうか?」
アイネ「駄目だよ。約束したじゃん。明日に
なったら食べられるんだから頑張ろう」
深琴「う‥うん。頑張れるかなあ‥こんな良
い匂いするんだよ。私頑張れない自信ある
な。アイネちゃんが帰ったら食べてしまい
そうな気がする」
アイネ「深琴ちゃーん‥」
深琴「ごめんね‥そしたら明日、私抜きで三
人で交換して」
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アイネ「分かった。私、深琴ちゃんの分も預
かって帰る」
深琴「‥アイネちゃん天才」
アイネ「‥深琴ちゃん作るところまでは頑張
れる?」
深琴「うん。息とめる」
顔が真っ赤になる深琴を見て笑うアイ
ネ。
○深夏の車の車内(夕)
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運転している深夏の横に座り、膝の上
のチョコレートを嬉しそうに眺めるア
イネ。
アイネ「ありがとうございました」
深夏「アイネちゃん‥お母さんのこと何とか
なりそうだから心配しないでね」
アイネ「‥ありがとうございます」
頭を下げるアイネ。
深夏「‥アイネちゃんのお母さんね、会社で
少しもジッとしてないんだよ。時給だから
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さ、沢山動いた人もあんまり動かなかった
人も同じお給料なのね。でもアイネちゃん
のお母さんはいつも自分が出来る精一杯の
ことをやってくれる。その後にお仕事する
人が一番やりやすい様に工夫して出来た製
品を並べておいてくれたりするの。だから
すごく助かる」
アイネ「‥はい」
深夏「毎日毎日私達より遅くまで働いてて、
本当にすごいなって思う。私には同じこと
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絶対に出来ないと思う‥だから尊敬する‥」
じっと聞いているアイネ。
深夏「もしかしたらアイネちゃんの人生は、
深琴とかその他の子達より困難が多いのか
もしれない‥これから辛いこととか多くあ
るのかもしれないけど、それがきっとアイ
ネちゃんを作っていくんだと思う。何か大
人とか子供とかそういうことを超えて、一
人の人として応援してる」
アイネ「‥はい」
-145-
深夏「でも‥出来ないこととかあったら遠慮
なく深琴や私に言ってね」
アイネ「ありがとうございます‥」
深夏「深琴、アイネちゃんのこと大好きなん
だよ」
アイネ「私もです」
深夏「さっきもチョコレート味見しすぎて半
分になっちゃったって、でもアイネちゃん
笑ってくれたって半べそ掻きながら反省し
てた」
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笑うアイネ。
○団地・アイネ達の住むアパートの中の一
室・台所(夜)
オムライスを作っているアイネ。チャ
イムが鳴る。
○同・玄関
アイネが扉を開けると十与が立ってい
る。
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十与「明日バレンタインでしょ?チョコレー
トケーキ買ったんだ。一緒に食べない?」
十与、嬉しそうにケーキの箱を渡す。
〇同・子供部屋(夜)
布団に寝ているシルバ・ルース(3
6)。
○同・居間(夜)
子供部屋の襖を少し開けるアイネ。
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アイネ「お母さん寝てる‥」
リカルドと遊んでいる十与。
十与「うん‥静かにしてよう」
頷いて襖を閉めるアイネ。
テーブルでオムライスを食べている十
与とアイネとリカルド。
十与「やばい。オムライス、メチャメチャ美
味しい。アイネちゃん上手だね」
アイネ「うん。料理するの好き」
十与「そうなんだ。美味しい!」
-147-
リカルド「お姉ちゃんいつも美味しいの作っ
てくれるよ」
十与「そっか‥アイネちゃんはいつもお姉ち
ゃんだね」
ピンポンとチャイムが鳴る。
アイネ「‥はい」
立ち上がるアイネ。
○同・玄関(夜)
アイネ、ドアを開けると吉沢満(55)
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が立っている。
吉沢「こんばんは。私吉沢といいます。お父
さんのことでご家族にお伝えしたいことが
あって来ました。お母さんいらっしゃる?」
アイネ「はい‥」
○同・子供部屋(夜)
布団に寝ているルースの上半身を起こ
すアイネ。
吉沢、部屋の脇に座る。
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隣の部屋で見守る十与。
吉沢「お母さんですか?ロドリゴさんの奥さ
ん?」
ルース「はい、そうです‥何か用事ですか?」
吉沢「私は在日外国人のサポートをしている
吉沢といいまして‥ロドリゴさんのことを
偶然知人から聞いたのですが、警察からは
何と言われましたか?」
アイネ「…え?」
ルース「あ、アイネ向こうでご飯食べてて‥」
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アイネ「‥はい」
アイネ、立ち上る。
吉沢「違うんですよ。警察が何と言ったのか
知りませんが、ロドリゴさんは事件に巻き
込まれただけなんです」
ルース「本当ですか?‥私もパパは物盗んだ
り絶対しないって警察に言ったけど、全然
聞いてくれないです」
吉沢「ロドリゴさんは、むしろ止めなさいっ
て止めた側なんです。なのに勘違いされて
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ロドリゴさんも一緒に捕まった形になって、
何とも気の毒な話でね。今知り合いの弁護
士さんに相談して掛け合って貰ってるとこ
ろなんだけど、とにかくご家族が心配され
てるだろうからってことでね、お伝えにき
たんです」
ルース「パパを助けて下さい」
吉沢「大丈夫大丈夫。一緒に捕まった内の一
人の人がね、ロドリゴさんは関係ないって
証言してるんですよ。絶対分かってもらえ
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るから心配せんでもいいから」
ルース「本当ですか?」
吉沢「日本の警察が融通が利かんからね‥ち
ょっと今時間がかかってるけど、心配しな
いでね。本当申し訳ないですね」
ルース「‥パパ大丈夫ですか?」
吉沢「うん、安心して待っていて下さい」
ルース「はい‥分かりました」
吉沢「じゃあ、これから別の所に行かないと
いけないから、今日はとりあえずそれだけ
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